2023年11月25日(土)オルガンリサイタル第11回「星々の光芒」が開催されました。公演までの5ヶ月余、共演の岩瀬亮氏とのコラボレーションによるメイキング過程の記録です。
6月15日(木)@下北沢
公演に向け、共演者の岩瀬亮さんとの合わせ練習が始まりました。リサイタル・シリーズでのコラボレーションのやり方と、本公演の目標とするところを説明しました。
写真の表情はまだ硬いですね。これからどのように変化して行くか楽しみです。
9月6日(水)音楽スタジオ@板橋
2回目の合わせ練習を行いました。全体の進行プランなどを提案。各作品の様々な特徴をどう生かすか?原語から和訳へ形式上の壁をどのようにして乗り越えるか?また音楽と詩が交互にどうしたら自然に流れるか?等など、今後の課題満載です。
パフォーマーが感じる‘違和感’には、プラン上の問題点や思慮不足が隠れているようです。それに向き合うことで解決のためのアイディアが浮かび、視界が開けてきます。試行錯誤を通して企画の意図がお客様に伝わるよう、今後もクリエイティブな時間を重ねていきたいと思います。
9月22日(金)
作品と向き合うとき、私たちはつい自分なりの意味を探してしまう。作家が本来抱いていた想いからかけ離れ「理解」――つまり理性で解ろうとする。あるモチーフを表面的で一方向からの捉え方をしていたことに気付いた途端、ハッとすることがある。
特にロマン派の作品においては、固定観念や独断が作品のみずみずしい感情を台無しにしかねない。優れた作品ほど慎ましく、多面的な光を秘めているのだと思う。そこに向かって真直ぐなまなざしを向ければ、語りかけてくるものがある。
10月5日(木)
19世紀、工業化が進み猛スピードで生産性は上がり経済が発展していった。都市に人口が集中し、大人たちは‘富=幸福’を追い求めた。そんな環境で若者の柔らかな心は、霧の中で道を探してもがいたことだろう。
自由な社会であるはずが、前時代の君主に代わって得体のしれない幻に心を支配され本来の自分自身を見失う。そんな時芸術(身を削って創作する作家の姿)は、世の中の価値観とは別の次元で「生きる意味」を示唆してくれる。
10月23日(月)
音や言葉を使って形作るものは大きく2つに分けられる。オペラや交響曲のような長大な音楽と、小説や戯曲のようなストーリー性のある文学。一方で器楽や歌曲などの小品や詩には、一瞬にして別世界に飛んで行ける魔法のような「自由」がある。そこがとても似ている。
そして’演奏’と’朗読’。作品の世界観に向き合う中で「技術」や「意図」といったものは次第に背後に押しやられる。その代わりに作品が生まれた「瞬間」に意識を集中すれば、表現者の身体を通して作品の本質が再現されるように思う。それも音楽と詩の類似点かもしれない。
11月2日(木)練習④@神奈川県民ホール
ひとつひとつの作品に没入していると感覚が硬直してくるが、様々な外的内的刺激によって生身の躰は反応し動いていく。目には見えない人と人とのコミュニケーションによって自然な心の状態へと導かれるようだ。
オルガンという楽器は人の声に一番近いと言われるように、その音は言葉となって語りかけ詩の言葉と共鳴する。「会うはずのない二人が、奏で語り合う中で一期一会の心の出会いを果たす。」そんな物語が見えてきた。
ホールでの練習が始まり、第2エンジン発動といったところ。最終的にはお客様の想像力が加わって、さらなる進化を遂げることを期待したいと思います。それにしても`オルガン初体験′楽しんでいますね!
リサイタルを終えて 12月18日
山下公園のイチョウ並木が色づいた11月25日、多くのお客様をお迎えして「リサイタル2023」が開催されました。長い準備期間とは異なり、前日のリハーサルまでの数週間は思わぬ展開の連続で、まるでジェットコースターのように駆け抜けました。
そこに起きる変化、障壁、交感、それぞれが生き物のようにひとつの方向を目指します。そして本番が始まると突然の静寂。研ぎ澄まされた感覚が少しずつ解放され、言葉と音は互いに色彩を与えながららせん状に上昇していきました。
これまで重ねてきた様々なコラボレーションでは、協働するジャンルによって全く違う形が現われてきます。それは互いのジャンルの限界を超え、どこまでも視点を伸ばすことができる可能性を秘めています。
未知の宇宙へ飛び出すように踏み出してみなければ分からない時空間と、人と人とのコミュニケーションから生まれる創造に‘完成’はないと思うのです。人が生み出すものの素晴らしさに、また会えたらと願っています。